2月28日のチリ地震津波では、避難勧告を受けた地域の住民のうち、実際に避難したのは1割以下だった点が問題になった。そりゃそうだ。地震に備えた非常食のネタの時にも書いたけど、所詮人は実際に目の前に脅威が迫らないない限り、危機感を感じないもんだ。まあ、津波の場合は(津波に限らないか)危機感を感じたときには既に手遅れだけどね(^^;)。
しかもまずいことに、第一波が低かったことに安心して帰宅してしまった人も多かった。津波のメカニズムを知っていれば常識だけど、津波は数度にわたって到来し、後の波ほど強くなる性質がある。案の定、第一波の数時間後にピークがやってきて、これまた住民避難の課題として浮き彫りになったというのは報道されている通り。なお、ピークが来ても被害がなかったのは、ただ単に潮が引いていたからだ(つまり、運が良かっただけ)。これがもし満潮と重なっていたら、こんな物では全く済まない被害になっていたはず。
でも、中にはちゃんと危機感を感じて避難した人たちも居たわけで・・・特に前のチリ地震津波を体験した人たちはちゃんと避難をしたそうな。つまり、トラウマレベルで刷り込まれていると言ってしまえる?(^^;)。
だったら、今後課題になるであろう住民への防災意識への指導に・・・乱暴な言い方だけどトラウマを使えばいいんじゃいだろうか?(笑)。危機感を感じて自分から動くように啓発するという感じで。だって今回幾ら防災無線とか戸別訪問で指示しようが、動かなかったわけでしょ?。そんな連中に広報とかの文章で幾ら啓発したって無駄だって。読まずに捨ててしまう&読んでも忘れてしまうに決まっている。
方法は簡単だ。非常にリアルな津波被災の再現映像を見せて、まるで自分が被災したかのような錯覚を与え、心に残るようにすればいいと思う。また、シチュエーションもいかにも有りそうな感じにしたドラマ仕立ての方が判りやすいと思う。たとえばこんな感じ・・・
≪舞台は海岸沿いの地方都市。ある日の午後、離れたところで起きた大地震で津波警報が発令され、実際に第一波が到達したけど予報と大きく違って数十センチ程度の津波しか観測されていなかった・・・という、まさに今回と同じようなシチュエーション≫
まずは避難所。第一波が低かったことに安心し、もう大丈夫だと次々に帰宅する町内の老人達。避難所の人は第2波以降が危険なんですからとどまるように説得するけど、年寄りなだけに聞く耳無し(理屈になっていない理屈で止めようとする人に大声を上げるジジイとか居ると更にリアル?)。全く根拠のない『時間経ったから大丈夫だろう』という思いこみで帰宅する。しかし念のためと戸締まりをしっかりし、雨戸まで閉めておく用心だけはする。また、年寄りなだけに足が遅く、まだ帰宅途上の老人も・・・
次のシーンは『うちは2階建てだから、2階に避難すれば大丈夫だろう』と考えて避難しなかった一家。お隣の一家も同じ考えで避難しておらず、『避難所って寒そうだし、不自由そうだし、退屈そうだから、行きたくないわよねー』といったのんきな会話を2階のベランダ越しに行っている。
そして次のシーンでは、『ラジオやテレビで津波って徒歩では逃げられないと言うけど、いざとなったら車だから逃げられるだろう』とか考えている宅配ドライバー。避難警報のせいか道路はがら空きで、渋滞で脱出を阻まれるなんて映画によくありそうなシチュエーションになりそうな気配もない。
そしてやってくる、第一波とは比較にならないほど巨大な第二波。海岸沿いの建物等が次々と飲み込まれ、都市へと向かっていき・・・・
最初のお年寄りの家ではあっという間に周囲に海水があふれ、どんどん水かさが増していく。もちろん雨戸なんかで浸水が防げるわけもなく、家の中は既に満水状態。そして流されてきた漁船が雨戸を打ち壊して家財道具が次々と外へ流出。
次の2階建ての家では、浸水部分は1階部分までしか行かなかったものの、濁流に乗ってやってくる瓦礫や車、その他様々な物で1階の柱や壁が次々に打ち壊され、ついには建物自体も崩壊。他の雑多な瓦礫と一緒にその家も瓦礫と化して流れ去っていく・・・(ちなみに、木造の建物は1メートル以上の津波の直撃で崩壊すると言われている)。
最後に宅配ドライバー。突然周囲の側溝から水があふれ、一面水浸しに。慌てて車を発進させて逃げようとするも、水のせいでどこが側溝なのか判らず案の定脱輪。脱出しようと四苦八苦している所へ、先ほどのおばあさんの家の家財道具や一戸建ての残骸を大量に巻き込んだ大波が押し寄せて・・・・。
こんな感じ。文章だと判りにくいけど(^^;)。まあ、ディアフタートゥモーローの高潮のシーンみたいな感じと言えば判りやすいかな?。
前半のポイントは、重ねて書くけど『いかにもありそうなシチュエーションの再現』であることが重要。多分避難しなかった理由のアンケートなんかが行われるだろうから、そのトップ10を全部入れた方がいいかも。つまり、そんな理由で残っても全く安全じゃないよという点を強調するわけだ。
後半のポイントは、壊れていく町のスペクタクルだ。当然CGを駆使することになるわけだけど、お役所お抱えのしょぼい制作会社ではなく、映画会社とかに依頼して迫力のある映像にするべき。またアングルも、ただ1視点で斜め受けから見ているだけでは全く臨場感が出ないので、現地の道路とかに立っているという視点で迫り来る津波を描くべきだ。もちろん結局人が助かるといった余計なドラマはいっさい入れない。
ただ、人が飲み込まれていくシーンは懲りすぎると、年寄りとかに見せるのは不適とか判断されてしまうだろうから(^^;)、後半はいっさい人を登場させないのもアリかも?。別に人が居なくても、『ああ、こりゃ確実に死んでるなあ・・・』と判るように作れるわけで、それで災害の迫力や悲惨さを表現することは十分に可能なはずだ。
そうやってインパクトのある映像を作り、DVDにして被災予想地域の人に各家庭に配って見てもらえば、まさに百聞は一見に如かずでいかにやばいかイメージしやすくなり、心に残るはず。そうすればいざ本番となったとき、馬鹿で身勝手な状況判断をしにくくなる・・・んじゃないかなあ?(^^;)。
(東日本大震災後の追記)
結局・・・この史上空前の大津波の時でも、『一旦避難したのに家に戻って津波に流された人』、『家に残って家毎津波に流された人』というのが何人も出た(被災した人達と関わる仕事なのでそういう話を何件も聞いたし、そもそも被災地だからそういう話も幾らでも伝え聞いている)。さすがに津波を舐めてという人は少なかったろうけど、今回も第一波が比較的低かったため、家に貴重品類を取りに戻ってしまった、家族や親戚が心配で車で戻ってしまったという話はよく聞いた。
この油断、震災一年前に起きたこのチリ地震津波騒ぎさえ無ければもっと防げたのでは・・・とも思ってしまうよね。確かこの時初めて大津波警報が出て、それで皆慌てて逃げたけど実際は大した浸水は無く(この時は只単に引き潮と重なっただけなんだけどね)、上記の通りもう終わったと思って家に帰った人が続出した。この時の経験から、大津波警報だけど今回も大したことはないだろうとか、第一波で終わりとか考えてしまった人がどれくらい居ただろうか?。
そして、もう津波自体の報道はとっくに終わってしまったけど、この『第2波目以降の方が強かった所が多かった』という事実が、被災地でも全然伝わっていないという点が問題だと思う(被災地では長期停電のため、復旧した頃には既に原発のニュースだけになっていたのだ^^;)。こんだけ犠牲者が出たのに、皆知らない&忘れてしまっているのだ。これでは数十年後、今回程じゃないにしても大津波が発生したとき、全く同じ事が起きてしまうと断言出来る。
というわけで、住民指導の基本はやはり
『津波は2波3波と押し寄せ、後の方ほど強くなる』と、
『自分の命より貴重な貴重品は無い』
の2点を絶対に浸透させるべきだと思う。
でもねえ・・・貴重品はともかく、家族や親戚を助けるためだと無下に行くなとも言えないわけで(^^;)。自分だけ助かったとしても、助けられなかったという後悔はずっとついて回るだろう。またその場では誰かを助けようとして必死になっていたはずだ。もし同じ立場だったら、誰かを放って置いて自分だけ避難なんて出来ただろうか?。
東日本大震災 被災ケーブルテレビ局が捉えた魂の記録映像 (秘蔵映像DVDムック)
3.11 東日本大震災 激震と大津波の記録 [DVD]
巨震激流 (3.11東日本大震災)
DVD 東日本大震災の記録〜3.11宮城〜
そして結局・・・「本物」が起きてしまったわけだ。左の二つは実際に津波が町中を襲うシーンを間近に撮影した映像が納められているDVD。あっという間に増えていく水の恐ろしさが非常によく伝わってきて、確実に津波の脅威を教育するために後世に残すべき資料だ。